大阪地方裁判所 昭和43年(わ)3656号 判決 1974年5月07日
本籍
神戸市灘区篠原南町四丁目一二番地
住居
大阪市北区兎我野町九六番地 泉州ビル一三号室
会社役員
西川芳夫
大正一二年五月二〇日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき当裁判所は検察官岡島嘉彦、弁護人大槻龍馬(主任)各出席のうえ審理を遂け、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役七月および罰金六五〇万円に処する。
この裁判確定の日から二年同右懲役刑の執行を猶予する。
被告人において右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用はその二分の一を被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、大阪市北区西寺町二丁目六番地法住寺ビル内に事務所を置き不動産の売買、手形の割引等を営むとともに、同区天神橋筋五丁目八番地、神戸市葺合区琴緒町五丁目七番地、東京都千代田区永田町二丁目二九番地ホテルニュージャパン五八〇号室に営業所を設けて電話加入権の売買業などを営んでいたものであるが、不況時対策等の資金備蓄のため自己の所得税を免れようと企て、昭和四一年度分の所得金額は四、七七一万〇、三六七円、これに対する所得税額は二、六八三万七、二〇〇円であるにもかかわらず、公表帳簿から収入金の一部を除外し、架空の借入金を計上してこれに対する利息を支払ったように仮装し、電話加入権の売買業等の営業名義を使用人等の名義にして自己の営業でないように仮装するなどの不正行為により、右所得金額のうち四、一六三万一、五八一円を秘匿したうえ、昭和四二年三月一五日、大阪北区北税務署において、同署長に対し、被告人名義で昭和四一年度分の所得金額が五一五万六、三三〇円、これに対する所得税額が一四九万二、一三〇円である旨、同日、神戸市生田区神戸税務署において、同署長に対し、使用人である稲田収二名義で同年度分の所得金額が九二万二、四五六円、これに対する所得税額が七万〇、九一〇円である旨、過少に分散虚偽記載した所得税確定申告書を各提出し、よって、同年度分の所得税二、五二七万四、一〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一、被告人の当公判廷における供述
一、第八回公判調書中の被告人の供述記載部分
一、被告人の検察官に対する供述調書(三四通)
一、大蔵事務官作成の被告人に対する質問てん末書(一五通)
一、証人河上他代の当公判廷における供述
一、第九回公判調書中の証人三浦徳太郎、同太田忠義の各供述記載部分
一、第一四回、第一五回、第一六回、第一七回、第一八回、第一九回各公判調書中の証人水野隆晴の各供述記載部分
一、第二一回公判調書中の証人三木晃の供述記載部分
一、第二二回公判調書中の証人菊池和夫の供述記載部分
一、次の者の検察官に対する各供述調書
水野隆晴(一一通)、高春根(五通、うち二通は抄本)、稲田収二(六通)、上原和夫(八通)、岡崎祥男(六通)、宮村繁樹、西村博
一、次の者の作成した各供述書
赤松程二、留河愛子、今西治一、西田昭郎、宮田晴雄、大井久子、好崎君子、谷崎俊子、井谷ナミエ、渡辺明代、大西善江(二通)、中尾栄美、土佐武子、大和留男、大和佐那枝
一、次の者に対する大蔵事務官作成の各質問てん末書
藤本年秀、(三通)、玉木成男、山本博章、平松正次、加藤京子、中西美鈴、大石茂夫、富永弘、山崎紀恵子、西村博、若井清利、稲田収二(三通)、上原和夫(二通)、宮村繁樹(四通)、滝本幸子
一、次の者の作成した確認書
水野隆晴、池田銀行梅田新道支店長外一、三和銀行大阪駅前支店、三和銀行大阪駅前支店長外一、住友信託銀行大阪駅前支店、住友信託銀行大阪駅前支店副長、住友銀行大阪駅前支店長、東海銀行梅田支店、東海銀行梅田支店長(二通)、東海銀行梅田支店長代理、三井信託銀行梅田支店、三菱銀行梅田支店、神戸銀行松屋町支店長、三和銀行内本町支店、兵庫相互銀行船場支店長外一、近畿相互銀行梅田支店長(二通)、近畿相互銀行三宮支店長、東海銀行桜橋支店次長、福徳相互銀行東京支店長、東海銀行赤坂支店長外一、三和銀行船場支店
一、次の者の作成した査察官又は検察官に対する回答書
東海銀行赤坂支店長、東京都中央区日本橋特別出張所住民登録係、同新宿区区長職務代理者、同品川区長職務代理者、同港区長、大阪市天王寺区役所市民課登録係、同東区長(二通)、同東成区長、同北区長、同東住吉区長、同西淀川区長、同東淀川区長、同福島区長、同阿倍野区役所市民課、同住吉区役所市民課登録係、吹田市長、枚方市長、神戸市兵庫区長(二通)、同須麿区役所市民課戸籍係、同須麿区長、同垂水区長(二通)、同長田区長、西宮市長(二通)、尼崎市長、小野市長、芦屋市長、高松市長、松山市長、岐阜市長、愛知県中村県税事務所長、宝塚市総務部課税課固定資産税係、埼玉県比企郡嵐山町長、和歌山県東牟 郡古座川町長、東京都中央税務事務所長、同千代田税務事務所長
一、次の査察官作成の調査てん末書
河上他代(五通)、長田和昭、吉川英太郎、三木晃(四通)、菅野保文(五通)、久保浩(三通)、鳥井薫
一、査察官河上他代作成の登記簿謄本綴一綴、銀行調査書類綴一綴、簿外預金元帳綴一綴
一、大阪法務局登記官徳田博作成の登記簿謄本二通
一、北税務署長作成の昭和四一年度所得税確定申告書写(西川芳夫名義のもの、稲田収二名義のもの各一通)
一、押収してある次の証拠物(昭和四五年押第四五七号)
振替伝票-昭和四二年一月ないし五月、各三綴(符号1ないし5)、元帳-同年一月ないし五月、計二六冊(同6ないし10)、決算書類-自昭和四二年一月至同年二月、一綴(同11)、決算書六綴(同12)、決算報告書六綴(同13)、給与関係書類一綴(同14)、手帳六冊(同15)、向日町外売買一件書類二綴(同16)、振替伝票六綴(同17)、元帳-昭和四一年度四二年度、四〇年度、計五綴(同18ないし20)、不動産元帳-昭和三九年度、一綴(同21)、不動産元帳-昭和三八年度一綴(同22)、支払利息領収書綴一綴(同23)、雑書一綴(同24)、領収書綴一綴(同25)、借入金利息支払領収書一綴(同26)、売買契約書綴-六地区、六綴(同27)、振替伝票-日商土地開発、昭和三九年一月ないし一二月、同四〇年一月ないし一二月、同四二年一月、二月、四月、同四一年一月ないし四月、六月ないし九月、一一月、計三六綴(同28ないし31)、振替伝票-神戸店、昭和四〇年一月ないし一一月、一一綴(同32)、諸経費領収書綴-昭和四一年、一二綴(同33)、牧野坂関係書類五綴(同34)雑書類一綴(同35)、営業譲渡契約書一綴(同36)、昭和四一年分個人確定申告書(写)一枚(同37)、元帳-昭和四一年一〇月、一一月、五冊(同38)、給料支払明細書綴一綴(同39)、決算報告書綴-昭和四一年一一月、一綴(同40)、印鑑一五五個(同41、45、47、51、52)、領収書一綴(同42)、振替伝票三綴(同43)、払出制限規定一枚(同44)、総勘定元帳-昭和四〇年一二月ないし同四一年一二月、一綴(同46)、元帳-昭和四一年、一綴(同48)、領収書綴-昭和四〇年一二月ないし同四二年二月、一五綴(同49)、手帳二冊(同50)、本支店勘定メモ帳一綴(同53)、伝票-昭和四〇年七月、八月、計二綴(同54、55)、振替伝票-昭和四〇年九月ないし一二月、三綴(同56)、真正の振替伝票-昭和四一年一月、二月、四月ないし一二月、八綴(同57)、振替伝票-昭和四一年三月、一綴(同58)、元帳-昭和四〇年一一月ないし同四一年一〇月、一綴(同59)、元帳一綴(同60)、振替伝票二綴(同61)、元帳一綴(同62)、振替伝票-昭和四一年一〇月ないし同四二年六月、一綴(同63)、領収書綴-昭和四一年一〇月ないし一二月、三綴(同64)、利益、経費、計算メモ六枚(同65)、メモー手帳在中であったもの、一綴(同66)、三宮メモ六冊(同67)、領収書綴一綴(同68)、当座勘定受入副報告書三枚(同69)、預り証五枚(同70)、公正証書一通(同71)、普通預金元帳-辰見弘名義一葉(同72)
(所得額の認定について)
本件においては、当事者間に所得金額の算定につき多くの争いがあり、当裁判所は判示のとおりこれを認定したので、その理由を簡単に説明しておくこととする(以下の説明において証証拠は、例えば、「第九回公判調書中の証人三浦徳太郎の供述記載部分」を「証人三浦の供述」とするなど特定に支障がない限り簡略化して表示することとする。)。
一、争点についての判断
1. 商品売買益について
弁護人は、たな卸資産の取得のために要した借入金の利子はたな卸資産の取得価格に算入するのが原則であり、被告人はこの原則に従って土地購入の際の借入金の利息等を土地原価に算入して評価増を行っていたものであるから、被告人が昭和四一年度販売の牧野および向日町の土地につき不当な評価増を行って、その売買益を三、九四九万三、五八八円も不当に減少させていた旨の検察官の主張は誤りである。これらの土地は全て借入金により購入等されたものであり、昭和三九、四〇年当時の借入金の平均利率を用いて算出すればうち二、二八六万三、五一一円は購入、造成等のための借入金利息と考えられ、過大な評価増は一、六六三万〇、〇七七円にすぎない旨主張している。
たな卸資産取得のために要した借入金の利子をたな卸資産の取得価格に算入することの当否については、本件当時と現在とで税務実務上の取扱いの原則に差異があるのであるが(昭和三九年直所一-一一の通達によれば不算入が原則であったが、その後の所得税法通達四七-二一によれば、算入が原則と改正された。)土地の購入、造成、販売等のみを事業とする者の場合等を考えれば明らかなように算入の原則には合理的理由があるし、本件当時の通達においても不算入が原則とされていたにすぎないのであるから、少くとも被告人が本件当時に真実借入金利息分を損金とせずに原価に算入する取扱いを行っていたのであれば、これを不適当なものとして否定すべき理由がなく、弁護人の主張はこの限りにおいて正当である。しかしながら、被告人が真実そのような取扱いを行っていたものかどうかについては、証人水野および被告人がその旨を公判段階で供述するのみであってこれを裏付ける具体的資料が何ら提出されないうえ、被告人らの右供述は、前掲関係証拠により認められる(イ)被告人は、帳簿上、多くの造成地のうち特定の土地に評価増を行って決算書に計上し、次の年度にはこれを他の特定土地の建設仮勘定に振替えてさらに評価増を計上しているのであって、特定の土地につきこれに関する借入金利息のみを一貫して計上するという形をとっていない事実、(ロ)銀行借入金の利息については別途支払利息として取扱われており、しかもその中には架空の支払利息までが計上されている事実等に照らし措信できないところである。被告人が行った土地評価増は、要するに将来の利益を減殺するとともに年間所得を五〇〇万円程度に計上するという目的で、架空支払利息等との関係から所得計算上の操作としてなされたものと考えるのが相当である。
2. 受入利息のうち手形割引収入について
手形割引収入に関しては、関係帳簿等の不備、毀棄、相手方所在不明等のため正確な割引日、割引料の確認のできなかった部分が多かったところ、検察官は、これについて、確認された振出日をもって即割引日とし、支払日までの(両日とも算入)実日数をもって即割引日数とし、割引料収入を算出したことが認められる(証人菊池和夫の供述、検察官の冒頭陳述書添付別紙3「手形割引料収入明細」参照。)。
しかしながら、証人三浦、同太田の各供述等を綜合すると、(イ)手形は必ずしも振出日に割引かれた訳ではなく、振出日即日(あるいは二、三日後)までに割引かれたものが全体の七〇パーセントないし九〇パーセントであり、その余の三〇パーセントないし一〇パーセントは一週間あるいほ一〇日、最大限一ケ月後に割引かれていたこと、(ロ)振出日(あるいはその二、三日後)に割引かれた場合にも、その割引日数は必ずしも実日数と一致せず、例えば支払期間四カ月の手形では一二〇日、三カ月と一〇日の手形では一〇〇日、を超えることがなかったこと、がそれぞれうかがえるのである(なお、振出日から相当経過した後に割引かれた場合が多く、平均すれば支払期間の三分の一経過後割引かれたものといえる、とか、割引料は検察官主張のそれより一〇〇万円ないし二〇〇万円少いと思う旨の証人水野や被告人の供述は、具体性に欠け、かつ誇張にすぎるものとして措信できない。)。
そうであれば、前記明細表の昭和四一年分のうち、相手方の資料と照合して割引料が確認できた三洋ハウス研究所、永和水機、安藤水道関係についてはそのままこれを認定すべきであるが(証拠によれば、その合計は六二万九、九六四円である。)、その余の分については、右(イ)(ロ)の二点を考慮して割引料を推認しなおす必要があり、その場合には右の限度で被告人に有利な合理的方法をとるほかないと考える。
そこで、(a)まず(ロ)の欠点を修正するため、全ての手形が振出日の三日後に割引かれたものとした場合の割引料を計算し(三洋ハウス関係永和水機関係あるいは四〇年度昭津起毛関係等の場合につき検討してみると、振出日即割引日の場合でも割引日と支払日の両日を算入したときと一方のみを算入したときがあったとものと認められるので、この点は昭和四一年度分の算出につき最も被告人に有利な形で割引日又は支払日の一方のみを算入することとし、暦の実日数によらず、一カ月を三〇日として計算する。その合計は三三五万〇、九五四円である。)(b)次に(イ)の欠点を修正するため、全ての手形が振出日の一月後に割引かれたものとした場合の割引料を計算したうえ、(その合計は二三四万六、二三四円である。)三日後割引分と一月後割引分とが七〇パーセントと三〇パーセントの割合で存在したものとして、割引料を推認し(三〇四万九、五三八円となる。)、これに前記三洋ハウス研究所等からの割引料六二万九、九六四円を加えて、結論として昭和四一年分の割引料収入を三六七万九、五〇二円と認めることとする。
3. 受入利息のうち船場商行関係(不動産担保金融)について
船場商行こと福本英雄から昭和四一年度分として取扱われるべき利息等として合計二三万七、五四〇円が支払われたことについては、担当者だった高春根が検察官に対する供述調書(昭和四三年七月一六日付、一二項までのもの)中で、示された手帳に基き具体的に供述しており、疑いなく認められるところである(これを受取ったことがないとする証人水野や被告人の供述は、単に記憶がないというのみで資料の裏付を欠き、容易に措信できない。)。
4. 営業経費(本店分)について
本店(奥二一)の営業経費について、検察官は、月一〇〇万円、年間一、二〇〇万円を算出認定しているところ、右は本店関係の決算報告書(昭和四一年一一月分、同四二年一月ないし五月分、符号一一ないし一三および四〇)に基き、そのうち異常に多い昭和四二年三月分を除くその余の月の分の平均が一〇〇万円弱であったことなどから推認されたものと認められ、水野や被告人も捜査段階ではこれを認め、右三月分が多額であったのはボーリング場関係の交際費等特殊な支出によるものであり、右決算報告書は正確に記載され、他に簿外の交際費等はない旨供述している。
しかしながら、証人水野や被告人の供述を待つまでもなく、被告人が従業員に対し年四回(三、六、九、一二の各月)の賞与を支給していたことは関係証拠により明らかであり、裏給与に対応する裏賞与を支給していたこともある程度うかがえるところであって、右四二年三月分が多額であった理由の一つがこの点にあったこと、それ故同月分のみならず、同四一年一一月分その他資料の存在しない賞与月においても他の月に比し相当多額の賞与支出があったのではないか、との疑問が存するのである(このことは、被告人の検察官に対する供述調書-昭和四三年七月一二日付、五項までのもの-によっても、ボーリング場関係交際費に関する供述が非常に抽象的であることからもうかがえる。)。
そこで、右昭和四二年三月分の経費中どの位が、ボーリング場関係交際費等同月に特殊なもので、どの位が裏賞与等賞与月に共通のものかを決定したうえこれを考慮した平均月間経費、年間経費を推認すべきものと考えるが、この点については明確な資料が存在しないので、証人水野により裏賞与分すなわち賞与月に共通する他の月より多い経費一〇〇万円と認め、これを考慮して、年間の経費を検察官主張の一、二〇〇万円より四〇〇万円多い一、六〇〇万円(一月平均一三三、三万円ということになる。)と推認することとする(弁護人は、昭和四二年三月分の経費のうち他の月より多い分は全て裏賞与等他の賞与月に共通のものであるとし、それ故一カ月平均の経費は一五〇万円であると主張するのであるが、被告人が捜査段階でボーリング場関係交際費をあげたことが全く根拠のない虚偽のものであったとは考えられないから、右主張を全面的に採用することはできない。又、弁護人は、被告人の供述により、仲介料支払五〇万円、旅費一二〇万円、簿外交際費三六〇万円、合計五三〇万円の経費が容認されるべきであるとするが、そのような事項に支出があったことは事実としてもその数額については極めて根拠に乏しく、全面的には採用できない。)。
5. 経費(固定資産税)について
被告人が納付義務を負う昭和四一年度の固定資産税が査察当時納付されていたと否とを問わず経費として考慮されるべきことは弁護人の主張のとおりであり、その数額が二五万四、一七〇円であることは前掲関係市町村等からの固定資産税額に関する回答書等(検察官の冒頭陳述書添付別紙13のうち固定資産税関係参照。)により認められるところである。検察官は、右は前記4で考慮した本店(奥二一)の営業経費、月間一〇〇万円の中に算入済であるとするようでさるが(第七回公判における釈明参照。)、右経費推認の根拠は前記4のとおりであるから、右経費中に未納分分固定資産税を算入済であるとする取扱いは相当でなく、別個の損金として計上すべきものと考える。
6. 減価償却費のうち南久宝寺の物件について
被告人が大阪市東区南久宝寺町一丁目八番地に(イ)家屋番号二二の三の居宅(木造瓦葺二階建、水野隆晴名義、昭和四〇年二月三日取得)のほか、(ロ)家屋番号二二の二の店舗(木造瓦葺二階建、大商株式会社名義、昭和三五年七月七日取得)を所有していたことは、前掲登記簿謄本二通その他の関係証拠により明らかであるところ、検察官は右の点を被告人らにおいて明確に供述しなかったことなどのためか、減価償却費の算出にあたり、右(イ)の建物等についてのみこれを行って(ロ)の建物のそれを行っていないことが認められる(検察官の冒頭陳述書添付別紙18、証人河上他代の供述参照。)。
従って、右(ロ)の建物につき減価償却費を計上すべきこととなるが、現段階においては、その取得価額、中古建物としての耐用年数等につき適確な資料がないので、証人水野あるいは被告人の供述により、その価額を三〇〇万円とし(これは前掲大阪市東区長の回答書による課税評価額が昭和三九ないし四一年度において一三〇万九、一〇〇円とされていることに照らし、不当な高額とは断じ難い。)耐用年数を一二年としたうえで、法定の償却方法(被告人は当時いわゆる白色申告で、よるべき償却方法を届出ていなかったのであるから、所得税法施行令第一二五条第一号により定額法)に従い、昭和四一年度の減価償却費を二二万四、一〇〇円(三〇〇万円の一〇〇分の九〇に〇・〇八三を乗じたもの)を算出計上することとする。
7. 減価償却費のうち豚舎等について
河内長野市高向に存する豚舎とその養豚経営について、弁護人は、中川金次を使用人として被告人自らが経営していた事業であるから、そのための資産である豚舎およびその設備につき昭和四一年分の減価償却がなさるべきである旨主張する。
被告人は、この点につき捜査段階において、二一部門に中川勘定を起し、右豚舎とその設備のための資金およびその運営資金を中川に貸付けて日歩一〇銭の利息をとっていた、他に豚売上の五パーセントを収入として計上し資産の償却にあてる形をとった旨供述しているのであって、その供述内容自体やや特異であり、しかも当時すでに相手方である中川金次の所在が不明であったことを考えると、右供述が捜査官の予断等により押しつけられたものと疑うべき理由もないから、これらにより養豚業の主体を中川と解することもさして不自然とはいえないのであるが、さらに右捜査段階の供述を検討すると、被告人が営業主体であり、広告募集で雇い入れた中川に対しては営業成績向上のため、定額給制をとらずに歩合給制をとるとともに、同人との間に資金貸付、利息納入の形態をとったものと解する余地が相当にあるうえ、当時捜査当局に対しては養豚業関係の売上、利益等が適確に把握されていなかったことから(現段階ではなおさらその把握は困難である。)、被告人はその点に関する追及を避けるため、養豚業の主体、経営実体につきあいまいな供述をしたのではないかとの疑問も生じるのである。そして被告人の当公判廷における供述と関係証拠(特に符号一五の三、五の手帳、四〇の四一年一一月末決算報告書等)の豚舎関係記載部分を併せ考えると、養豚業の主体は被告人であったと解すべき相当な理由があり、しかも、本件では被告人の所有の豚舎等に関して中川からの利息収入一〇〇万円を計上認定しているのであるから、右養豚関係の豚舎付属設備等資産につき減価償却を行う必要があるというべきである。
そこで、その取得価格につき検討してみると、これについては直接適確な資料が存在しないのであるが、(イ)弁護人主張の二、一五五万円は、要するにスケッチ程度の図面と水野の説明に従って復元してみればそうなるというにすぎず、建築士脇田が誠実に復元見積ったことは間違いないとしても特段の資料を示さずになされたという水野の説明そのものは容易に措信することがでさないし(被告人らにおいて昭和四〇年に建設されたという豚舎等につき、その当時の資料が、部分的にせよ、被告人らの保存分としても相手業者からの取寄分としても全く提出されないこと、そしてそれにつき何らの説明がなされないことはまことに不可解である。)二、〇〇〇万円位であった旨の証人水野や被告人の供述も措信できないから結局採用することができず、他方、(ロ)押収してある前記手帳(符号一五の五)には「豚舎勘定四〇年一二月一九日現在二九四万四、六三五円」、(四一年)「一月六日防寒設備二五万円」等の記載が、昭和四一年一一月末決算報告書(符号四〇)の二一部門固定資産中には「河内長野豚舎三一四万六、九二九円」の記載が、さらに昭和四二年一月末、二月末、三月末、四月末、五月末の各決算報告書の二一部門(符号一一、一二の六、一三の二、一三の三)固定資産中にも「河内長野豚舎」として「三〇七万九、一七三円」、「三〇二万四、三九一円」等三〇〇万円前後の金額の記載が存在するのであって、これらは前記手帳の養豚、豚舎に関する他の記載部分や符号一五の三の手帳の関係記載部分(中には四〇年における豚舎工事代金の支払金額と解される記載も存在する。)等に照らすと、各時点における豚舎等の評価額を示すものと認められるから(被告人らは、右と同旨の理解をなした証人河上の供述について、何ら明解な反対証拠を提出していない。わずかに弁護人が水野の検面調書の証拠能力に関する意見陳述に際し、三一四万六、九二九円という金額は什器備品の評価額である旨主張しているが、そのような解釈は極めて不自然というべきであろう。)、四〇年一二月以前の償却分等若干の誤差を考慮してもその評価額が四〇〇万円を超えることはなかったと認めるのが相当である。
減価償却に当って定額法によるべきことは前記6のとおりであり、その耐用年数を一五年として(豚舎、附属設備等の構造等が不明であるが、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一が定める関係部分、例えば建物の附属設備中給排水等設備、一般電気設備がいずれも一五年であること、木造等の建物中一般工場用が一六年、木骨モルタル造建物中魚市場と畜場等用が一六年、同一般工場用が一五年であること、構築物中コンクリート造の飼育場等が一五年であることなどと、被告人の主張においても豚舎につき二〇年、電気、排水設備につき一五年としていることから決定したものである。)昭和四一年度の減価償却費を二三万七、六〇〇円(四〇〇万円の一〇〇分の九〇に〇・〇六六を乗じたもの)を算出計上することとする。
8 少額配当所得について
検察官が被告人の配当所得として主張している配当金のなかには、枚方信用金庫分九、〇〇〇円、太平信用組合分二万一、六〇〇円が含まれているところ(検察官の冒頭陳述書添付別紙17参照。)、右は旧租税特別措置法(昭和四一年当時施行のもの)第八条の四によりいわゆる少額配当所得として確定申告不要の対象となるものであり、逋脱の犯意のないものというべきであるから、犯則所得から除外されるべきものと解される。その合計は源泉所得税を含み三万四、〇〇〇円である。
二、所得額および所得税額の算出について
以上一の判断結果に従い、検察官主張のうち、(1)事業所得関係において、受入利息を減額し(一の2により五〇万四、八五九円)、営業経費を増額し(一の4により四〇〇万円)、減価償却を認め(一の7により二三万七、六〇〇円、前記のとおり豚舎関係の利息収入に対応するものとして、不動産所得関係とはしなかった。)、(2)不動産所得関係において、経費を増額し(一の5により二四万六、七三〇円)、減価償却費を増額し(一の6により二二万四、一〇〇円)、(3)配当所得関係において、当年利益を減額し(一の8により三万四、〇〇〇円)、その結果算出された総所得額(四、七七一万〇、三六七円)について、所定の所得控除、配当控除を行って納付すべき所得税額を算出したものであって、その詳細は検察官の冒頭陳述添付の「犯則所得および税額」を修正した別紙のとおりである。
(法令の適用)
被告人の判示所為は所得税法第二三八条第一項に該当するところ、本件犯行の動機、態様、結果、被告人の経歴犯行後の事情、捜査の経緯その他を考慮すると罰金刑のみによることは極めて不相当であって懲役刑と罰金刑を併科するのが相当と考えられるので、その措置をしたうえ、同法条第二項を適用することとし、その所定刑期、金額の範囲内で被告人を懲役七月および罰金六五〇万円に処することとし、刑法第二五条第一項によりこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、同法第一八条により被告人において右罰金を完納できないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用してその二分の一を被告人の負担とする。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 堀内信明)
(別紙) 犯則所得および税額
<省略>